たくさんある歌舞伎の演技の特徴の一つに、「見得(みえ)」という演技方法があります。
見得をわかりやすく説明すると、お芝居の流れの中で役が感じた一瞬の感情をより大げさに際立たせるために用いられるものです。
役者が見得をする時は、舞台の上手でツケ打ち※1が「バタバタ、、、バーッタリ」と音を合わせたり、客席では大向うさん※2が役者に掛け声をかけたりして、お芝居がより一層盛り上がる「見せ場」となります。
もちろん、勧進帳にも見得が効果的に使われています。
今回は弁慶を演じる3人に見得をきってもらいながら、説明していきます。
その壱 「不動の見得」
偽の勧進帳を冨樫の要求通り読み上げた弁慶が、勧進帳を右手に、左手にお数珠を持って胸の前に構えます。
お不動さんの形に決めるので、この呼び方をしています。
弁慶(明くん)、決まってますね!!
その弍 「元禄見得」
弁慶と冨樫の丁々発止の山伏問答の後にする見得。
左手左足を前に出しぐっと張ります。右手は横に引いて決める形。
この元禄見得は荒事ではよく使われます。
かなり体を張るので、この見得のあとは疲れるとか、疲れないとか・・・。
その参 「石投げの見得」
嫌疑が晴れた義経一行が無事を喜び合い互いに昔語りをしている最中に、右手で石つぶてをパッと投げる形をします。
シュッとしていてかっこいい見得です。
以上は弁慶だけがする見得ですが、他に義経、冨樫、弁慶の三人でする「天地人の見得」もあります。
偽の勧進帳を弁慶が読もうとするときに冨樫が一瞬覗こうとし、その時に義経は顔を見られないように笠を深くかぶろうとします。その三人で決める形です。
どの見得もツケが入りお客さんには合図にもなるので、観劇の時にはぜひ拍手と掛け声をかけてください!
役者たち、とても気分がノってさらにいいお芝居を見せてくれることでしょう。
本公演では、トリプルキャストで上演します。3人の弁慶それぞれの持ち味を生かした見得をお楽しみください。
※1ツケ打ち・・・舞台上手にいて、芝居の要所要所で効果音を出してくれる。
※2大向う(おおむこう)・・・舞台から見ると客席の一番奥、一番向こうから声がかかることから「大向う」という。役者が見得をして決めたときや、有名なセリフの前などに、屋号や「待ってました!」などと声をかける。これも歌舞伎の演出効果の一部となっている。