【2014夏公演】上演演目について 

所長 竹柴 源一

 私達日本伝統芸能振興会が、家柄、性別に関係なく日本人なら誰でも歌舞伎を学べる環境を作るべく活動をスタートしてから十年。

11才で歌舞伎を学び始めた子供達は17才になりました。彼らは中学生の時に大きな決断をして歌舞伎を学んでいます。それは将来歌舞伎を職業として選択するという大きな夢です。今現在も彼らは歌舞伎を学び、歌舞伎を職業として選ぶために日々、修行しています。

これまでの活動の集大成の大きな節目となるこの夏の公演では、第一の演目として歌舞伎作品の最高峰、統合舞台芸術の完成型といわれる勧進帳に彼らは挑戦します。
この勧進帳は武家社会の芸術であった能の「安宅の関」を武士以外の日本人に普段交流のない武家社会にもこの様な名作があるということを解りやすく観せるために、歌舞伎の人達が創り直したものです。能と歌舞伎の違いを知るのに適した作品です。

総合舞台芸術である歌舞伎は「音」を大切にします。日本語の基本を大切にし、その一つ一つの音を誇張したり、耳に心地よい音にしたり、記憶に残る工夫をしたりすることで、感性に訴える「音」を創り出してきました。そして四百年の間日本人は日本語の美しさに誇りを持って、それを伝えてきました。その基本が長唄や囃子です。その長唄の歴史の中でも、名曲中の名曲と言われているのがこの「勧進帳」です。

伝創館でも小学校高学年の子供達は三味線や太鼓や笛を学んでいます。日本の音の美しさを表現しなければならない歌舞伎役者にとっては、大切な歌舞伎の基本です。今回の勧進帳ではその子供達も専門家の演奏者と共に三味線、鼓、笛を演奏します。

役者にとっても、義経、弁慶、富樫はもちろん、四天王・番卒すべての役が台詞回し立ち回り等大変なお芝居であり、子供達には大冒険の挑戦となりますが、基本をしっかりと学びながら総合的に舞台を創り上げることを意識させたいと思っております。

また同じ松羽目の舞台で「操り三番叟」にも挑戦します。
歌舞伎を人形劇にすると文楽になります。文楽の人形は三人で使います。その文楽を更に発展させたのが操り人形で、江戸で盛んになりました。西洋のマリオネットと同じです。その操り人形を人間である歌舞伎俳優が演じたらどうなるかという新しい挑戦をして完成したのがこの操り三番叟です。大阪で生まれたこの挑戦は江戸(東京)でもすぐに取り入れられ様々な歌舞伎作品に応用されました。
歌舞伎は常に新しい発想を取り入れて創造し、作品を作り出すということを若草始め子供達に理解してもらう為、この作品を選びました。
若い感性で創られたこの演目は肉体表現に重きを置いた作品で、肉体と技術が最高の時に演じることができる旬の作品です。基本を大切にしたアクロバティックな動きは歌舞伎の二枚目が勤め次の目標となる座頭の腹芸、歌舞伎への完成型を求めます。
現在、若手の日本舞踊家の中で最も勢いのある花柳寿美藏師が子供達を指導します。

「釣女」は、若草始め子供達は必ず一度は演じている作品です。
稽古した基本の動きや仕草をお客様に見てもらって、そのお客様の反応を再び演技に生かすというプロになる為の第一歩となります。また踊りの中に歌舞伎の基本動作が数多く有り、各役柄もそれぞれに必要で大事な役、四人で一つの作品を作り上げます。また、影の力として役者がスムーズに動けるように後見という役割もこの作品より修得してもらいます。

「三人吉三」は日本語の美しさを知らせる為に新人の子供達が演じます。
歌舞伎の台詞は日本語の美しさと単語の持つ意味を大切にして日本の音に乗ってしゃべります。東北の人も、沖縄の人も鹿児島の人も、テレビ、ラジオのない時代に詠んでも聞いて理解できる様に創ってあります。三人吉三の名調子を学ぶ中で新人の子供達にはまず日本語の美しさを知ってもらいます。

今回の公演で選んだ演目は、子供達の将来を見据えると修業として絶対に必要な演目であり、それぞれがいま挑戦すべき演目です。伝創館こども歌舞伎・若草歌舞伎の成長した姿、そして子供達一人一人の成長した姿を是非ご高覧くださいますようお願い申し上げます。
皆々様のご来場心よりお待ちしております。