文久二年(1862)江戸市村座初演。本名代「青砥稿花紅彩画」(あおとぞうし はなの にしきえ)、通称「白浪五人男」で河竹黙阿弥の代表作のひとつです。今回は、人気の高い「浜松屋の場」と「稲瀬川勢揃いの場」をあわせてご覧いただきます。今回のように弁天小僧の登場する場のみを上演する場合は、外題が「弁天娘女男白浪」と変わります。「白浪」とは泥棒のことで、昔中国で盗賊を意味した「白波賊」に由来しています。
「浜松屋の場」は、美しい武家の娘が実は男の盗賊で、見破られて居直り、啖呵を切る場面、弁天小僧の「知らざあいって聞かせやしょう」という名台詞で有名な傑作です。盗賊を見破った侍、玉島逸当もまたその正体は一味の首魁である日本駄右衛門であり、いくつもの伏線がはられた物語になっています。
「稲瀬川勢揃いの場」は、悪事がばれて逃げる五人の盗賊が追いつめられて、桜咲く土手で捕手に囲まれながら名乗りをあげる名場面です。この場面から漫画家・石ノ森章太郎は「秘密戦隊ゴレンジャー」(戦隊モノの元祖)のアイディアを得たと言われています。鎌倉の地名を良い込み、五人それぞれの個性がよく現れた七五調の名台詞が聞きどころです。
あらすじ
浜松屋店先の場
ここは鎌倉の呉服屋「浜松屋」。その店先に美しい武家娘とその若党が訪れ、婚礼の支度だという娘はさまざまな品物を手に取って選んでいます。その娘が万引きをしたと思った番頭と手代たちは、寄ってたかって娘をなぐり額に疵をつけてしまいますが、調べてみると娘が盗ったと思ったのは別の店の品物。若党は詫びに金を渡すように迫ります。
そこに位の高そうな侍が現れ、娘が実は男で、ふたりが店をだまそうと企んでいたことを見破ります。問いつめられた娘はとうとう男であることを白状し、世に知られた盗賊の一味、弁天小僧菊之助と南郷力丸であると名乗りをあげるのでした。
稲瀬川勢揃いの場
悪事がばれた盗賊団・白浪五人男は、桜が咲き乱れる稲瀬川の土手までとうとう追いつめられます。頭目の日本駄右衛門を筆頭に、「志ら浪」と書かれた傘を差しながら登場した五人男は、やがて十手を振りかざす捕手たちに取り囲まれます。
ところが、捕手の「動くな」という言葉にも動ぜず、五人はそれぞれに堂々と名乗りをあげるのでした。